レーダー6

レーダー

どたん場になって一言、「やっぱり間に合いませんでした」と言えばそれですむ。

艦政本部の担当部員と電話で交渉しているうちに、向こうの電話には艦政本部第三部の首席部員の海軍大佐が出た。

「このレーダーは製造時に十分な検査をしてあるので、今更工廠で検査する必要などない。取扱説明書通り現地で組み立てればちゃんと動作するようになっている。一日も早く発送しろ」といきまいている。

この海軍大佐は兵学校卒業後大尉時代に海軍大学校選科学生として京都大学電気工学科を卒業し、海軍技術研究所に長く勤めていた人であるが、海軍工廠の勤務は経験していない。

こんな人を相手に議論してもはじまらぬので、猪村は素直に、「ご趣旨はよく分かりましたから出来るだけ早い便で出発させます」ということで電話を切った。

しかし、猪村は自分の立てた予定を変更するつもりは毛頭ない。どたん場になって一言、「やっぱり間に合いませんでした」と言えばそれですむ。



猪村が艦政本部と電話で喧嘩した翌日のことである。梱包を解いて仮組み立ての作業を指揮していた造兵中尉から「アンテナが組み立て不能なので見に来て下さい」という連絡があって見に行った。

そのアンテナは金網の反射板の前に二分の一波長の長さのアンテナを多数配列した指向性アン テナであるが、その金網を張るためのアルミニュームのアングル材の組み立てが出来ないという。

そんな馬鹿なと現物と図面を見ながら、猪村はふと気がついた。これは三角法で書いた図面を、一角法で書いた図面だと見て製造したものらしい。馬鹿ばかしい話であるが、図面の書き方に一角法が残っていてこんな間違いをすることもある。

早速、艦政本部へ電話してこのことを報告する。艦政本部では「そんな馬鹿な」と言ったが、ともかく製造関係者に連絡して明日猪村の所へ出頭させるという。

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