天測航法4

天測航法

「不精しないで度々天測をやってみろ、下手な天測でも何回か繰り返してやっておれば自分がどの辺にいるか位は分かる筈だ」

横須賀を出発した徴傭船は南下して無事サイパンに到着する。サイパンには用事がないのでそのまま東南に向かう。そのうち、

「予定地点に到るもトラック島を見ず、ポナペに向かう」という電報が来る。

トラック島と言ったってトラック諸島は相当広い範囲に散在しているのに、それにゆき当たらぬとは少しおかしいぞと猪村はいささか不安になる。

次の電報は、「予定地点に到るもポナペ島を見ず、マーシャルへ向かう」という報告である。

トラック諸島にゆき当たらぬ程位置がずれていては、孤島であるポナペにゆき当たる筈はない。

しかしマーシャル群島は緯度にして十度程度もひろがって散在している。どんなへまをやってもマーシャル群島のどこかには行き当たるだろうとたかをくくっていると、その次には、

「予定地点に到るもマーシャル群島を見ず」という電報が来る。

猪村はいささかあわてたが、「貴船の天測位置知らせ」という電報を打つ。

天測とは時計による時刻と天体を見た角度とから自分のいる場所の経度と緯度を算出する位置測定方法である。航海年表という本にこの計算に使うデーターが集録されている。



太平洋での天測位置を横須賀で聞いて見たって何の役に立つものでもないが、猪村はその船が面倒くさがって天測をやってないのだろうと いう疑いを持っていたからこの電報で注意を喚起してみたのである。

猪村の言いたいことは、「不精しないで度々天測をやってみろ、下手な天測でも何回か繰り返してやっておれば自分がどの辺にいるか位は分かる筈だ」と言ったつもりである。

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