現場に来てみてはじめて痛感することが沢山あります
「ほう。君のような学者を土木工事の現場監督に使うとは、海軍も随分非能率なことをするもんだなあ」
「学者と言われると恐縮しますが、現場監督としての適性を持ってないことは確かです。然し、現場監督になって、現場に来てみてはじめて痛感することが沢山ありますから、海軍が非能率なことをやっているとは必ずしも言えないと思います」
「へえ、それはどんな事なの」
「陸上基地航空隊が海軍戦力の中で随分大きな役割を担当するようになっているのに、私の担当する技術部門では万事がまだ軍艦を対象に設計されているんです。
例えば無線の送信機は基本ブロックに容易に分解することができるように設計されていますが、その各ブロックの寸法は潜水艦のハッチから容易に出し入れできる寸法にしてあります。
これに対して、無線の機械を空輸して急速に装備するということは少しも考慮されてないんです。ディーゼル発電機のあんなに大きなフライホイールやアンテナ用の長い木柱などとても空輸出来ませんし現地の据付工事にも長い時間がかかります。
これを早く改造しておかぬと、いざというときに無線が間に合わなくなります。こんなことは何も現地へ来なくてもよく分かる筈ですが、凡人はやはり現場を見てはじめて痛感するんです」
「面白い話だな、君もし明日の午後時間があったらゆっくり話を聞かせてくれないか。今日はこれから見張りに出るから」
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