「本日は私も行きます」
飛行場は簡単な柵で野原をくぎり、中に一本の滑走路があるだけで、遠くの方に番兵がいたが、校長さんの宅から柵をまたいで飛行場の中に入ってもだれにもとがめられなかった。
第一回の出撃では、悪天候と敵の見事な防戦との為に我が方に大きな損害があって、このことが何処からもれたのか部落中に知れ渡り、校長さんの耳にも入った。校長さんは夏休みで暇だったので、翌日は朝早くから飛行場へ入って第二回の出撃を見送った。
前日の出撃で部下将兵に多くの戦死者を出し、今日再び出撃命令を出さねばならぬ司令(陸軍の聯隊長に相当する配置)はさぞつらいであろう。どんな訓辞をするのだろうかと校長さんは見送りの隊員の後ろに隠れて見守っていた。
搭乗員整列、司令はおだやかな顔で淡淡と命令を訓辞した。そして、おわりに、「本日は私も行きます」 と一言付け加えて壇を降り直ちに飛行服に着換えて一番機に乗った。その日、全機無事帰還したという噂が耳に入るまで校長さんは気が気ではなかったそうである。
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