海軍へ就職

海軍へ就職

昭和38年4月15日付けでそれぞれ海軍造船中尉、海軍造機中尉、海軍造兵中尉に任官する同期生総員13名の連中はその前日海軍省に集められて、通常礼装の着方やら挙手の敬礼の仕方、また軍服を着ているときは雨が降っても傘をさしてはいけないというような、さしあたり必要な注意を与えられた。

海軍士官の通常礼装は、フロックコートに金ボタンで、階級を表す金筋の袖章が付き、短剣のバンドをコートの上から締めるというスタイルで、前の日まではうす汚れた学生服がよく似合っていた猪村には通常礼服を着て町中を歩くのが、チンドン屋を連想していささか照れくさかった。

幸い当日は小雨だったので、通常礼服の上から雨衣を羽織って金筋や金ボタンを隠し、途中で他の軍人に出会って敬礼を交わすのも面倒だと、下宿から出た道でタクシーを拾って海軍省の玄関に乗り付けた。 その日は、猪村達にとって、天皇陛下の官吏に任命され、しかも初めから高等官という結構な御身分になる門出の日であったから、みんなうきうきした気分になっていた。

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