上海1

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非合法のルートから入手できる情報にはろくなものはない

第二回の乗艦実習を終わると、当然技術研究所の沼谷技師の下に配属されるものと思っていた猪村は、差し当たりの研究問題を給電線関係の問題から選んで、相当綿密な研究計画を立案しておいた。そして、

「佐世保海軍工廠造兵部部員に補す」という辞令を貰ってがっかりした。

米国駐在造兵監督官に転勤する西山造兵少佐の後任である。外国に駐在する造兵監督官の任務は軍事技術情報の収集である。情報の収集と言ってもスパイのような仕事をするわけではない。

正々堂々と表玄関から集められる情報を集めて、その裏にあるものを判断するのが造兵監督官の仕事である。日本海軍は兵器又は兵器の部品を外国のメーカーに注文する。

この注文品の製造上の打合せとその領収検査の仕事を通じて造兵監督官はメーカーの技師と懇意になり、そうしたルートから軍事技術情報の断片が流れてくる。そういう断片をつなぎあわせて判断するのである。



技術情報に関する限り、非合法のルートから入手できる情報にはろくなものはない。 先輩の造兵科士官はほとんど全員外国勤務の経験を持っていた。多くの人は大尉か少佐の時代に造兵監督官として、また大尉に進級したばかりの者から毎年一人位の割りで選抜されて外国の大学に留学を命ぜられ二年ないし三年の外国生活をする。文官系統では技手の時代に造兵監督官助手として外国生活をする。今のサラリーマンには外国勤務を嫌がる者が多いが、当時は洋行帰りという言葉があったように外国勤務の経歴は高く評価されていた。

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