キャプテン・オブ・ガンルーム
ガンルームにはケプガンと呼ばれる士官がいる。ケプガンとはキャプテン・オブ・ガンルームの略称で、ガンルームの牢名主という程の意味である。然し、猪村はケプガンのことを日本語でどういうのかは知らない。多分、ケプガンを翻訳した日本語は存在しなかったのだろうと思っている。 大体、ケプガンという配置は辞令が出て任命される配置ではない。ガンルームの住人のなかで兵科将校の最先任者が、自然にこの牢名主の仕事を引き受けることになる。軍艦の中の指揮権の順序は客 軍令承行令で定められていて、指揮権の承行順序から言えば海軍機関大佐は海軍少尉より後に置かれているので、ガンルームの兵科将校の最先任者が少尉であっても、ガンルームの機関中尉がケプ ガンを勤めることはない。
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ケプガンは別にこれという仕事をする訳ではない。ただ牢名主としてガンルームに睨みをきかせておればよいのだ。中、少尉候補生という血の気の多い、そして大部分が独身の野郎共ばかりが集まって、長い間しゃばの風に当たる事もなく戦争ごっこに明け暮れているのだから、誰もがいらいらしてくる。その結果ガンルームの中では感情のもつれが多発する。感情のもつれが陰にこもってガンルームの中に冷たい風が流れたり、感情のもつれが無秩序に発散されて、つかみあいの喧嘩が発生したりすることがないように、無言のうちに処理していくのが牢名主の仕事である。
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