金剛と同じ設計で作っているのに霧島はなんで
戦艦霧島の狭くて暑苦しいガンルームの中で、猪村は同僚の造船中尉に質問した。
「金剛と同じ設計で作っているのに霧島はなんでこんなにせせこましく感じるのだろう」造船中尉はさすが専門のこととて、金剛と霧島との兵装の差を細かく述べて、「これだけ余分の兵器を搭載しているので、居住性が犠牲になっているんだ」と説明した。
「気にいらんね。人間を虐待して、少しばかり余計に兵器を積んでそれで戦争に勝てると思っているのかね。こんな設計をしたのは日本の造船官かね」
「設計をしたのは日本の造船官に違いないが、軍令部からの要求をどう調和させるかが設計のポイントになるんだと思うよ」
「居住性を犠牲にしてまで、こんな兵器を搭載することはできないと軍令部に断ったらどうだい。造船には平賀譲らずなんて強い人がいるではないか」
平賀さんは後に東大の総長をつとめた造船中将で名前は譲であるが、軍令部からの要求に対して仲々譲歩しないので、平賀譲らずと呼ばれていて、猪村のような若い者でもそのあだ名を知っていた。
「それは君、船体の復元性など造船プロパーな問題になると造船屋として譲歩することは出来ないが、兵装と居住性のバランスというような問題になると軍艦を使う方が最後の決定権を持っている よ。それに、日本の近海で艦隊決戦をするとなると、そこまでやって来る米国艦隊の軍艦より日本の軍艦のほうが居住性が劣っていても大して不利にならぬかも知れないよ」 造船中尉の言うことは至極もっともなので、猪村は議論をするのを諦めたが、それでも軍艦霧島の設計の背後にある考え方はどうにも気に入らなかった。
リンク