最初は戦艦金剛、その次は戦艦霧島
一つの軍艦に一等船客を何人も乗せておくほどの余裕はどの軍艦にもない。戦艦の時だけは、猪村は造船中尉と二人一緒に乗せられたが、他の軍艦へは、猪村一人だけで、ぽつんと赴任することになる。定期異動の時期でもないのに陸棲動物である造兵中尉なんて珍しいのが来たというわけで、一艦中の士官が関心を持ってくれる。当方も他にすることがないので、あちらこちらと首をつっこんで色々と聞いてまわる。質問が常識はずれであればある程、相手は面白がって親切に教えてくれるという次第で結構有効な実習になった。
一等船客の猪村造兵中尉が最初に乗艦したのは戦艦金剛で、その次に乗艦したのは戦艦霧島である。金剛は英国で建造され、霧島は金剛の設計を基礎にして日本で建造された。金剛から霧島に乗り換えてみると、金剛が万事ゆったりしていたのに反し、霧島がいかにも狭くるしくてこせこせしている事を痛感した。ことに、霧島のガンルームは狭く感じられた。 説明を加えておくと、ガンルームというのは戦艦、航空母艦、巡洋艦などに設けられている中、少尉、候補生専用のサロンである。海軍では大尉以上の階級の士官が一人前の士官として扱われ、大尉以上副長(中佐)以下の士官(艦長だけは別)のサロンを士官室と称し、中、少尉候補生のサロンはガンルームと言っていた。ガンルームの正式の名称は士官次室であり、士官室の英語名はワードルームであったが、士官次室という言葉もワードルームという言葉も余り使われていなかった。
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