世界で二番目にこわいですわ
「園原さんは何か言っていましたか」権堂さんはさすが気にかかる様子だった。
「別に、何とも思っていないようだから気にすることはないよ。
でも、最初は驚いたらしいね。
あんたに叱りつけられた後ですぐ僕に電話をかけてきてね、横須賀の権堂って誰だと聞くからさ、私の所にいる高等官七等の技師だと言ったら安心して呆れていたよ。
君の言葉使いがあんまり荒いので、園原さんは、間違って誰か偉い人が電話に出たかと思ったらしいな、失礼ですがあなたはどなたですかと聞いたそうだねえ。
そしたら横須賀の権堂と言ってがちゃんと電話を切ったから、横須賀の権堂って誰だろうと思って僕のところへ電話したんだそうだ」
「相手があまりわからん事を言うもんですからついかっとなりまして」
「かっとなったかも知らんが、中尉相当官の技師が中佐を叱りとばす光景を見たのははじめてだな」
「然し、猪村さんはこわい。世界で二番目にこわいですわ」
「その一番目は誰ですか」
「うちのかあちゃんですわ」 「そんな事聞くまでもない話だという顔をして権堂さんはしゃーしゃーと答えた。権堂さんが真面目な顔で言ってのけたので、ここで笑っては失礼だと思った猪村は笑いをこらえるのに苦労した。
コメント