13人名の仲間の内9名が東京大学の卒業生で、この9名は大学在学中時々集まって会食をしていたからある程度お互いの気心がわかっていた。九州大出身の2名の造船中尉と1名の造兵中尉、及び京都大学出身の1名の造機中尉だけが初対面で、猪村が怖かったのはこの造機中尉である。
名前からして大山剛という強そうな名前だった。背丈が高く、筋骨隆々として、相手を威圧するようないかめしい顔付きをしていた。こんな手合にかかったらひとたまりもないだろうと、腕力の弱さにかけては自信を持っている猪村は警戒した。
「今日の航空本部長の訓辞は少しおかしいと思うんだが」などと言い出して大山造機中尉から「ここな不忠者めが、貴様は上官の訓示を批判するのか。軍人の本文をなんと心得とるか」などと睨み付けられたらちぢみ上がってしまうだろう、滅多なことを言うでないぞと考えて黙っていた。 その大山がうまそうに煙草をふしながら、猪村が考えていたことと同じ事を言い出した。