開戦3

開戦

不安は段々深刻になる。

東洋における英国の植民地で独立国となるべき地域には、この他に印度とビルマがあるが、こんな広い地域の莫大な数の住民の世話を焼く程日本の国力は充実していないから、これらの地域では開住民自身が「蹶然起つ」べきものであろうと猪村は考える。

マレーとビルマとの間には日本に対して敵意を持っていない独立国タイがあるので、このタイを緩衝地帯としてマレー以遠に手をだすべきでない。

補給路はなるべく短くしておかねば日本の海軍力で防衛できなくなるというのが猪村の戦略である。

もとより猪村は戦略の専門家ではない。しかしこういう考え方が大東亜戦争における日本の戦略の常識の線であると、戦争が終わって四十年以上経過した今でも猪村はそう考えている。

戦略の専門家である筈の大本営の参謀連中が実行する戦略は、猪村戦略とは全く違っているらしいので猪村の不安は段々深刻になる。

先に紹介したバーバラ・タッチマンの「愚行の行進」では、真珠湾攻撃を日本の愚行だと言っている。

日本は石油が欲しいなら、仏印進駐と同じ要領で蘭印に進駐して石油を買って帰ればよいのに、そんなことをすると輸送路をアメリカ艦隊に攻撃されるに違いないから、その前にアメリカ艦隊に打撃を与えておこうと考えて、真珠湾攻撃を決行したのであろうが、アメリカの国情と日本の 国情との相違を知らない日本人流の考え方である。

アメリカ政府がどれほど日本に宣戦布告したいと考えても、議会と国民感情からそう簡単に宣戦布告をすることが出来ないで困っている所へ、日本軍がアメリカ領土に攻撃を加え、一瞬にしてアメリカの国論を統一してしまった。

これは日本の愚行であると言うのだが猪村にはこの説の当否は解らない。



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