この戦争においてレーダーがあれほど重大な役割を果たすことになろうとは
抵抗の断線はその熱容量の設計ミスが原因である。
この抵抗には千分の一秒ごとに十万分の一秒間十アンペアの電流が流れその抵抗値は十オームである。
近頃は中学校の教科書にも書いてあるが抵抗の発熱は電流の二乗に抵抗値を掛けた値になる。
電流は十アンペア、抵抗は十オームであれば、発熱は千ワットである。
然し、千分の一秒ごとに十万分の一秒間千ワットの発熱があるのだから、平均的には十ワットの発熱であり、二倍の余裕を取った二十ワットの熱容量の抵抗を使えばよい。
この計算を、うっかりして次のように間違うことがある。
それは千分の一秒ごとに十万分の一秒間十アンペアの電流が流れるのだから平均電流は十分の一アンペアである。
この平均電流の二乗に十オームの抵抗値を掛けて十分の一ワットの発熱だと計算する。
実際に十分の一ワット程度の熱容量の抵抗を使って十ワットの熱が発生すればすぐ焼き切れて設計ミスが直にわかるのだが、十分の一ワットに対し十分な余裕を持っている手頃な抵抗として選んだのが五ワットの抵抗だったので、連続運転をして見ないと事故発生には到らなかったのである。
幼稚な設計ミスではあるが、熟練者でも幼稚な設計ミスを冒すことがあり、こういうミスを発見するために検査という作業が存在する。
それにしても、このレーダーは昨年の十月試作機が完成して以来今日まで四か月もの時間があっ たのにその間一度も連続運転をしたことがなかったのであろうか。
レーダーの生産は技術研究所電 気研究部の各研究科から臨時に集めた混成部隊でやっているという話だが、最高責任者は誰なんだろう、臨時編成の混成部隊の責任分担はちゃんと明確に定められているのだろうかと、猪村はいささか不安になった。
然し、この戦争においてレーダーがあれほど重大な役割を果たすことになろうとは、猪村はこの時点においては予想していなかった。
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