なんだ、こんな簡単な故障が解らぬとは
今回は製造ミスではなくて設計ミスらしいので、籍村から技術研究所へ連絡し、技術研究所か担当者が二名横須賀工廠まで来たが彼等も故障原因をつきとめることができない。
まる一日かかって、ああでもない、こうでもないとやっていて、翌日はとうとうこの部分を製造した住友通信機の技館まで横須賀へ呼びよせたが、まだ原因が判明しない。
猪村はとうとう我慢が出来なくなって、役等に言い渡した。「諸君はもう東京へ帰れ。東京へ帰ったら現在製造検査中のレーダーを二時間以上連続運転して見ろ。
そしてこれと同じ故障がでないレーダーがあったらそれを横須賀へ回してくれ。どのレーダーもこれと同じ故障が出るようならそれは設計ミスだ。
設計ミスというものはどんな偉い人が設計しても残っているものだから、それは仕方がない。然しこの設計ミスが今日まで発見出来なかったのは、このレーダーの連機運転を二時間以上やってない証拠で、そんなでたらめな検査をやらしているレーダー部門の親方は切腹ものだと伝えてくれ」
ということで、彼等を追い返した。 彼等を追い返した後で故障の原因はすぐ解った。部品を一点、一点チェックして見たところ、コイルと並列に接続されている抵抗が断線していた。
なんだ、こんな簡単な故障が解らぬとは、南洋ボケを繰り返しているうちにおれも焼きがまわったなと猪村は苦笑した。
この抵抗はパルス電流を通すためにコイルに並列に接続されているのであるが、この抵抗が断線しても総合的な導通試験で は電流はコイルの方を通って流れるので、断線を発見出来ないという盲点があって誰もが気がつか なかったらしい。
この抵抗が断線すると、パルス電流がコイルの方を流れねばならなくなるが、コ イルは流れるパルス電流波形を変えてしまうのでレーダーの波形が乱れてしまうという現象が発生したのだ。
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