連続運転一時間にして送信機の部分におかしな現象
このアンテナの製造者は有名な鉄塔メーカーである。
横須賀工廠からはその建設工事を発注していたので、その関係で猪村をよく知っているそのメーカーの技師者を連れて猪村の所へ平身低頭謝りにくる。
「あんた方も相当でたらめだが、これは東京監督官事務所で領収検査をして、検査担当の監督官助手がちゃんと合格印を押してある。どういう検査をしたんでしょうね」
このアンテナの発注者である艦政本部か、その領収検査を担当した東京監督官事務所からは誰も頭を下げに来ないでメーカーの技師だけをよこした点が、猪村には気に入らない。
メーカーの技師長は、領収検査の時の特別な事情をくだくだと説明して猪村に詫びる。
「過去のことは仕方がありません。至急対策を講じて貰いますが、東京の艦政本部第三部へ顔を出して、首席部員と担当部員に、横須賀の猪村部員からこっぴどく叱られたと報告しておいて下さい」
と言ってその技師長を帰した。
昭和十六年の十月から昭和十七年の二月までには、このレーダーを何台か製造している筈である。
最初の何台かは、アンテナの部分は技術研究所自身の工作場で製造していたのであろう。本格的な生産に入った時点でこの鉄塔メーカーに発注し、その最初の製品の誤作が猪村に発見されたのであろう。
二日後で、正しく製作されたアンテナが膨き、早速組み立てを完了して試験に取りかかる。現地へ出張する造兵中尉と検査工とに試験をさせて村はその実行を監督する。
色々と初期事故が出たが何とか調整が終わり、連続運転に移る。連続運転一時間にして送信機の部分におかしな現象が出はじめ、どうしてもその原因が解らない。
最初に組み立てを終わった第一台目のレーダーに出た故障であったので、急いで第二台目のレーダーを組み立てて試験をして見ると、最初は正常に動作していたが、連続一時間半の運転で第一台目のレーダーと同じ現象が起こって直らない。
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