古き良き日6

古き良き日

「文官・馬匹」と総称されたという笑い話

陸軍では「文官・馬匹」と総称されたという笑い話があるが、海軍の技術部門では文官と武官の差別は無かった。無線操縦の試験の時の話がある。大砲の実弾射撃の訓練では筏の上に衝立を立ててこの後を駆逐艦が曳航し、その衝立を標的にして射撃するのであるが、後を引いている駆逐艦に外れ弾が命中する危険を避けるため長い綱で役を引っ張り筏と駆逐艦との距離を十分に離していた。

こんな曳航の仕方では標的の進路を急に変更することが出来ぬなど色々な制限があって、実戦に近い条件下での訓練が出来なかった。そこで標的艦を建造することになった。 標的艦には古くて廃艦になった軍艦を使ってその甲板をコンクリートで固め、弾丸が命中しても標的艦に穴があいて浸水沈没という事故にならないようにしておく。

実弾射撃と言っても演習のと きの実弾には炸薬が入れてないので、ただ鉄の塊が標的艦に当たるだけのことである。それでも標的艦を直接狙うことは避けて、標的艦が短い綱で曳航している標的を狙って射撃する。標的艦と標的との間の綱が短いので標的の運動は比較的自由になる。

然し、この標的艦に人間を乗せる訳にはゆかぬ。ボイラー、エンジン、操舵機構をすべて無線操縦にした。この場合の無線操縦は簡単なもので、射撃艦におかれた送信所から命令した通りの動作 を標的艦で実行して、標的艦の状態(速度、進路、操舵角、主軸の回転数)などを標的艦から射撃 艦へ報告するだけでよい。



射撃艦と標的艦とが同時に送信することがないように時計で制御する。「簡単な制御ではあるが機械の誤動作は重大な事故につながるので、各部分に対して厳重な安全設 計が組込まれている。何重もの安全設計を組こむ技術は暗号機の設計技術に似たところがある。そこでこの部分の設計は海軍技術研究所で暗号機の設計を担当している田淵技師の担当になった。

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