無線方位測定機
無線方位測定機という兵器は日本海軍では明治時代から使われていた。昭和十年頃の時点で、水上艦船に搭載する方位測定機は海軍部内で設計したもの、潜水艦に搭載する方位測定機はドイツのテレフンケンという会社で設計したもの(製造は日本国内の民間会社で行っていた)、飛行機に搭載する方位測定機は米国のクルーシーという会社から買ったものが使われていた。
これらの方位測定機は地球の表面に平行に進行する電波をループアンテナで測定するという原理の測定機で、電波の進行方向に対しループの平面が直角になったときはその電波の磁力線がループの平面の中に含まれずその電波の感度が零になるので、ループアンテナを軸の回りに回転して電波の感度が零になる点をみつけ、これから電波の到来方位を決定するものである。
イオン化層で反射する短波は受信点では地球の表面に対し角度を持って進行するので、このようなループアンテナでは電波の進行方向を測定することが出来ない。
イオン化層で反射して地表面に対して角度を持って入来する短波の方位測定にはアドコック式アンテナが用いられる。二本のアンテナに同じ強さの電波が同時に到来すると、その二本のアンテナに誘起する電圧は強さと位相とが同一になるので、両電圧の差は零になる。
同じ強さの電波でも到来時間に差があるとその二本のアンテナに誘起する電圧には互いに位相差が出るので両電圧の差は零にはならない。両電圧の差は到来時間の差が大きくなるほど大きくなる。この原理を用い正方形の四頂点の位置に各一本の垂直アンテナを立て、その四本のアンテナに誘起する電圧をゴニオメータという回路で適当に組み合わせ電波の到来方向を測定するようなアンテナの組み合わせをアドコック式アンテナという。
アドコック式アンテナを用いた方位測定機は既に明治時代から存在したが、南波技師は陸上に装備して遠距離の短波送信機からの電波を方位測定するのに適した機械を設計したのである。 海軍における短波無線方位測定機の第一号機は東京の近郊に設置され、猪村は技術研究所での一 般実習のときこの機械に就いて実習したことがある。この第一号機は関東平野のまっただ中、その当時は見渡すかぎり畑が続いている地点に設置され、どちらを向いても電波の伝ぱんに影響を及ぼすようなものはなく、測定精度は大変良かった。