地球の上空二百キロ程度の場所に地球をとりまくイオン化層が存在
短波方位測定のお話をする前に短波のお話をしておかねばなるまい。
無線通信が実用化された当初は、現在短波と言われている波長の短い電波は遠距離通信の目的には余り役に立たないと考えられていた。電波は光と同じく直線的に進行するものだから、送信アンテナから見通した地平線の所までは容易に到達するがそれ以遠の地点は地球の球面の陰に隠れて電波の到達しない場所となり、そういう場所へ電波を到達させるためには、地球の球面に沿って電波が回り込むことが出来るように長い波長の電波を使わねばならぬと考えられていた。
遠距離通信の役に立ちそうもない短波はアマチュア無線で自由に使ってよいことにしていたのだが、そのアマチュア無線で使ってみると、短波で随分遠距離まで直接通信ができることが分かった。その原因を調べていると、地球の上空二百キロ程度の場所に地球をとりまくイオン化層が存在し、電波がそのイオン化層に当たると地球に向けて反射され、地球の表面では電波は再び上空に向けて反射され、このような反射を繰り返して遠距離に到達するということがわかった。このイオン化層の反射を利用して通信するには短波程度の波長の電波が最適であることがわかったのでアマチュア 無線から短波を取り戻して商用や軍用に使うようになった。猪村が海軍に入った昭和の初めころは、海軍の無線通信は短波通信の全盛時代であった