海軍工廠3

海軍工廠

毎日が楽しかった

主任室の会議卓に青写真を拡げ、壁にかかった黒板に何やら図面を書いて、ああでもない、こうでもないと主任以下全員が熱心に議論をしている。こういう議論に参加するのが猪村の実習の目的だから、

「おさきに失礼します」と言って帰宅するわけにもゆかぬ。しばらくするとこの研究科の庶務を担当している従業員が手配してあった蕎麦の出前がとどくのであるが、その中にはちゃんと猪村の分も含まれている。全員が空腹を一杯の蕎麦で一時おさえをした上で、会議は夜遅くまで続くことがある。工員には残業手当が出るが、技手(判任官)以上には手当が出ない。独身者の猪村は研究所の近くに下宿していたので、帰りが遅いのは苦にならなかったが、こう毎晩遅いと沼谷主任を始め技手や年配の工員の家庭生活は全く犠牲になっているなあと思った。



第一回の乗艦実習が終わる頃から猪村は海軍が大好きになったが、その海軍で自分の使命を果たすには電気工学に対する基礎知識をもう少し深く勉強しなければならぬことを痛感した。そして、そういう勉強を始めてみると段々電気工学という学問が面白くなった。電気工学の勉強をするためにはこう毎晩遅くまで仕事のお付き合いをさせられるのはいささか困った。然し、海軍技術研究所 廠でのこういう仕事は猪村には大変興味があり、毎日が楽しかった。

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